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東京地方裁判所 平成8年(ワ)19656号 判決

原告

破産者白井建設株式会社破産管財人

松平久子

被告

アローゴルフ株式会社

右代表者代表取締役

寺内勲

右両名訴訟代理人弁護士

服部弘志

角谷雄志

主文

一  被告は、原告に対し、金一五五〇万円及びこれに対する平成八年一〇月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  破産者白井建設株式会社(以下「破産者」という。)は、支払不能を破産原因として、平成八年七月三一日午後一時三〇分に東京地方裁判所において破産宣告を受けた。原告は、同日、同裁判所によりその破産管財人に選任された。

(二)  被告は、ゴルフ会員権の販売を主な業とする会社である。

2  譲渡担保権設定契約

(一) 平成元年から平成二年ころにかけて、破産者は被告から次の預託金制ゴルフ会員権二本(以下「本件ゴルフ会員権」という。)を購入するとともに、その購入代金三四〇〇万円を被告から借り入れた。

ゴルフクラブ名 鴻巣カントリークラブ

ゴルフ場経営会社 三宝開発株式会社(以下「三宝開発」という。)

(1) 会員権番号 KA五五四 額面一四五万円 名義人白井和義

(2) 会員権番号 KA二〇八 額面一四五万円 名義人中山満輝(この会員権は、後に今井満に名義書換された。)

破産者及び被告は、右購入時に、一度、金銭消費貸借契約及び本件ゴルフ会員権に対する譲渡担保権設定契約を締結したが、新たに平成七年一二月一日付けで金銭消費貸借契約及び本件ゴルフ会員権に対する譲渡担保権設定契約を締結し直した(以下、この契約を「本件消費貸借契約」及び「本件譲渡担保権設定契約」という。)。

(二) 破産者は、自社の従業員を本件ゴルフ会員権の名義人としたが、同会員権を破産者に売却した被告は、破産者が同会員権の所有者であることを知っていた。

(三) 破産者は、平成七年一二月末ころ、本件消費貸借契約に基づく金利支払のため、被告に対して約束手形二四枚を振り出した。右約束手形は、それぞれ支払期日を、平成八年一月三一日から平成九年一〇月三一日まで、毎月末日又は三〇日とするものであった。

3  破産者の支払停止

破産者は、資金繰りに窮して、平成八年四月三〇日に第一回の、同年五月一日に第二回の手形不渡りを出して、銀行取引停止処分を受けた。

さらに、破産者は、平成八年四月三〇日の夜から同年五月一日の朝にかけて、各債権者に対し、約束手形の不渡りを出したことをファックスで通知した。

4  被告の悪意

被告が破産者から振出しを受けた平成八年四月三〇日を支払期日とする約束手形も、同日に支払のため呈示されたが、資金不足のため支払を拒絶された。

したがって、同日、被告は、破産者が支払停止となったことを知った。

5  譲渡担保権の対抗要件

破産者が支払停止となったことを知った被告は、破産者から事前に受領していたゴルフ会員権譲渡通知書をもって、前記2(一)(1)のゴルフ会員権については、平成八年五月二日の午前八時から一二時までの間に、前記2(一)(2)のゴルフ会員権については、平成八年五月一日の一二時から午後六時までの間に、ゴルフ場経営会社である三宝開発に対して内容証明による譲渡通知を行った。三宝開発は、前記2(一)(1)のゴルフ会員権の譲渡通知を同月七日に、前記2(一)(2)のゴルフ会員権の譲渡通知を同月二日に受領した。

6  本件ゴルフ会員権の処分

平成八年五月一五日、被告は、本件ゴルフ会員権をそれぞれ七八〇万円及び七七〇万円の合計一五五〇万円で売却処分した。

7  対抗要件の否認

前記事情により、原告は、破産法七四条一項により、本件ゴルフ会員権の内容証明による譲渡通知、すなわち本件譲渡担保権設定についての対抗要件を否認する。すなわち、

(一) 本件譲渡担保権設定は、平成七年一二月一日であり、譲渡通知行為が行われた平成八年五月一日又は同月二日までには一五日以上が経過している。

(二) 被告が、破産者の第一回不渡りを知ったのは平成八年四月三〇日であり、被告は、破産者が支払停止となったことを知った後に譲渡通知を行った。

原告の対抗要件否認により、被告は本件譲渡担保権を原告に対して対抗できないので、被告は、原告に対して本件ゴルフ会員権を破産財団に返還する義務がある。

8  価額償還

しかし、被告は既に本件ゴルフ会員権を譲渡処分しているので、破産法七七条一項により、原告は、本件ゴルフ会員権の時価である一五五〇万円の価額償還を求める。

9  よって、原告は、破産法七四条一項、七七条一項に基づき、被告に対して一五五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年一〇月二二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)、(二)は認める。

2(一)  同2の(一)は概ね認める。但し、同(一)(2)のゴルフ会員権は後に今井満に名義書換されたのではなく、白井建設株式会社に名義書換されたものである。

(二)  同2の(二)、(三)は認める。

3  同3のうち、破産者が平成八年四月三〇日に第一回の手形不渡りを出したことは認めるが、同年五月一日に第二回の手形不渡りを出して銀行取引停止処分を受けたことは知らない。その余は否認する。

4  同4のうち、被告が破産者から振出しを受けた平成八年四月三〇日を支払期日とする約束手形が同日支払を拒絶されたことは認めるが、同日被告において破産者が支払停止になったことを知ったとの事実は否認する。

5  同5のうち、被告が破産者から受領していたゴルフ会員権譲渡通知書をもって、その主張の日時に三宝開発に対して内容証明による譲渡通知を行ったことは認めるが、その余は知らない。

6  同6は認める。但し、処分の日は一方は五月一五日であり、他方は六月六日である。

7  同7のうち、本件譲渡担保権設定の日から譲渡通知の日までに一五日以上が経過していること、被告が第一回の不渡りを知ったのが平成八年四月三〇日であることは認めるが、その余は否認ないし争う。

8  同8、9は争う。

三  被告の主張

1  被告は悪意ではない。

破産者が支払停止となったのは、破産者の平成八年四月三〇日の第一回目の手形不渡りの時ではなく、同年五月一日に第二回目の手形不渡りを出し銀行取引停止処分となった時である。被告は、同年五月一日及び同月二日の各譲渡行為通知時において、被告が第二回目の不渡りを出し銀行取引停止処分となったことを知らなかった。

2  本件譲渡担保権設定について対抗関係は生じない。

本件では、破産宣告前において、本件譲渡担保権が設定され、その実行として本件ゴルフ会員権が処分されたことにより、本件譲渡担保権は消滅したのであるから、被告と原告の間には本件譲渡担保権設定について対抗関係は生じないというべきである。

また、被告は、本件譲渡担保権の実行において処分清算型を選択したのであるが、処分清算型の場合、譲渡担保権の実行によりゴルフ会員権を確定的に取得するのは担保権者ではなく、買受人である第三者である。このように処分清算型により実行する場合には、被告はゴルフ会員権を確定的に取得することにはならないのであり、この点からも、本件譲渡担保権の実行による会員権の確定的取得について原告との間で対抗関係は生じないというべきである。

したがって、本件において対抗関係の否認ということもあり得ない。

3  仮に対抗関係を生じるとしても、指名債権譲渡の通知はそもそも対抗要件ではない。

ゴルフ会員権の売買においては、取引の慣例上、代金支払と引換えに会員権証書の引渡しが行われるのであるから、事実上会員権証書を所持する者に会員権が帰属するものと推定されるのであり、そもそも二重譲渡の危険という債権譲渡の対抗要件を要求する根拠はない。それ故、ゴルフ会員権売買において、譲渡人が内容証明による譲渡通知を出すということは一般の会員権販売業界の慣行として行われていないのである。このようなゴルフ会員権の特性を無視して指名債権譲渡の通知承諾の規定を準用してゴルフ会員権について確定日付ある通知がないと譲受けを第三者に対抗できないとすることは、かえってゴルフ会員権売買の取引の安全性を害し、混乱をもたらす。したがって、ゴルフ会員権の譲渡については、そもそも確定日付ある通知はゴルフ会員権譲渡の対抗要件とはなり得ず、破産法七四条の否認権の対象とはなり得ない。

しかも、本件においては、破産宣告前に、既に本件ゴルフ会員権の売買は、被告からの各譲受人に対しゴルフ場経営会社の入会承認がなされることによって完結しているのであるから、なおさら確定日ある通知がなくても対抗できるものと解すべきである。

4  仮に、本件譲渡担保権を処分清算型により実行した場合にも、まず実行時に譲渡担保権者が確定的にゴルフ会員権を取得し、その後に買受人である第三者にゴルフ会員権が確定的に移転するものとしても、この場合、破産法七四条一項所定の一五日の起算点は、被告が担保権を実行し、ゴルフ会員権を確定的に取得した時であると解すべきである。

本件において、被告は、本件譲渡担保権の実行により本件ゴルフ会員権を確定的に取得した時から一五日以内である平成八年五月二日と同月七日に各譲渡通知をなし、ゴルフ会員権取得のための対抗要件を備えた。

したがって、本件の場合、破産法七四条一項の「権利の移転ありたる日より一五日を経過した後に」対抗要件を取得した場合には当たらないといわなければならない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  1 破産者が、支払不能を破産原因として、平成八年七月三一日午後一時三〇分に東京地方裁判所において破産宣告を受け、原告が、同日、同裁判所によりその破産管財人に選任されたこと、被告がゴルフ会員権の販売を主な業とする会社であること、2 平成元年から平成二年ころにかけて、破産者が被告から本件ゴルフ会員権を購入するとともに、その購入代金三四〇〇万円を被告から借り入れたこと、破産者及び被告が、右購入時、一度、金銭消費貸借契約及び本件ゴルフ会員権に対する譲渡担保権設定契約を締結し、その後、新たに平成七年一二月一日付けで本件消費貸借契約及び本件譲渡担保権設定契約を締結し直したこと、破産者は、自社の従業員を本件ゴルフ会員権の名義人としたが、同会員権は破産者の所有に属するものであること、3 破産者が、平成七年一二月末ころ、本件消費貸借契約に基づく金利支払のため、被告に対して約束手形二四枚を振り出したこと、右約束手形は、それぞれ支払期日を、平成八年一月三一日から平成九年一〇月三一日まで、毎月末日又は三〇日とするものであったこと、破産者が平成八年四月三〇日に第一回の手形不渡りを出したこと、被告が破産者から振出しを受けた平成八年四月三〇日を支払期日とする約束手形が同日支払を拒絶されたこと、4 被告が、破産者から受領していたゴルフ会員権譲渡通知書をもって、平成八年五月二日及び同月一日に三宝開発に対して内容証明による譲渡通知を行い、右譲渡通知がそれぞれ同月七日及び同月二日に三宝開発に到達したこと、5 被告が、平成八年五月一五日ころ、本件ゴルフ会員権をそれぞれ七八〇万円及び七七〇万円の合計一五五〇万円で処分したことは、当事者間に争いがない。

二  原告は、本訴において、前記内容証明による譲渡通知行為は本件譲渡担保権設定についての第三者に対する対抗要件であるとして、破産法七四条一項により右譲渡通知行為を否認する旨意思表示をしたことは、本件記録上明らかである。

右否認は、本件譲渡担保権設定がなされたのは平成七年一二月一日であり、その日から被告が譲渡通知を行った平成八年五月二日又は同月一日までには一五日以上が経過していること、被告が、破産者の第一回の手形不渡りを知ったのは平成八年四月三〇日であり、被告は、破産者が支払停止となったことを知った後に譲渡通知を行ったことを理由とするものであるが、被告は右否認の効力を争うので、以下この点について判断する。

1  預託金制ゴルフ会員権を担保のため譲渡した者が破産した場合、破産管財人は、右譲渡について正当な利害関係を有する第三者の地位に立つものであり、したがって、右ゴルフ会員権を担保の趣旨で譲り受けた者は、確定日付ある債権譲渡通知又は債務者の承諾を得なければ、破産管財人に対抗することはできないものと解される。

被告は、事実欄第二の三2記載のとおり、本件譲渡担保権設定について対抗関係は生じず、したがって、本件において対抗要件の否認ということはあり得ないと主張する。

しかしながら、本件においては、担保の目的で本件ゴルフ会員権の譲渡を受けた者が、破産宣告前に第三者に対する対抗要件を具備するため債権譲渡の通知行為をなした場合、右債権譲渡の通知行為が破産法七四条一項の否認の対象となるかどうかが問題になっているのであり、破産宣告時に被告が譲渡担保権の目的である本件ゴルフ会員権を保有していることや、破産宣告時に被告と破産管財人である原告との間に本件ゴルフ会員権の譲り受けに関して対抗関係が存在することは、右否認権行使の前提要件ではない。被告の主張は採用することができない。

2  甲二によれば、本件譲渡担保権設定契約において、(一) 担保提供者(破産者)は、債務者(破産者)が被告に対し現在及び将来負担する一切の債務の担保として本件ゴルフ会員権を譲渡する、(二) 担保提供者は、本件ゴルフ会員権の証券のほか、名義変更手続に要する一切の書類を被告に交付した、(三) 債務者が被告に対する債務の一つでも期限に弁済しない場合には、被告は、担保提供者に事前に通知することなく、本件ゴルフ会員権を一般に適当と認められる方法、時期、価額等で他に売却処分し、または、本件ゴルフ会員権を一般に適当と認められる時期、価額で被告の所有とし、その処分代金若しくは評価金額をもって、債務の全部又は一部の弁済に充当することができる、被告はそのほか、任意の方法により預託金の返還を受け、その返還金をもって、債務の弁済に充当することができる、(四) 担保提供者は、差出人を担保提供者、受取人をゴルフ場経営会社とするゴルフ会員権譲渡通知書(三枚複写)に実印を押印して被告に交付する、担保提供者は、被告がその裁量により、右の譲渡通知書を郵送に付しても異議はない、(五) 被告は、譲渡担保権の目的である本件ゴルフ会員権を、被告の債務を担保するため、再度市中金融機関に担保差し入れをし、又は譲渡担保権のみを他に譲渡することができ、担保提供者は、あらかじめこれを承諾するなどの約定がなされていることが認められる。

本件譲渡担保権設定契約に、本件ゴルフ会員権の移転の効果が右契約締結時より後の特定の時期に生ずるとの停止条件その他の特約が存在することを認めるに足りる証拠はなく、右契約の各条項(特に(一)、(四))からすれば、本件ゴルフ会員権の移転の効果は右契約締結時に生ずるものとされているものと解するのが相当である。

したがって、本件において破産法七四条一項の定める一五日間の期間の起算日は、右権利移転の効果が生じた平成七年一二月一日である。

3  破産者が平成八年四月三〇日に第一回の手形不渡りを出したこと、被告が破産者から振出しを受けた平成八年四月三〇日を支払期日とする約束手形が同日支払を拒絶され、したがって、被告が、同日、破産者において第一回の手形不渡りを出したことを知ったことは、前記一記載のとおりである。

甲四によれば、破産者の第一回の手形不渡りは「資金不足」を理由とするものであり、破産者は資金不足によって手形不渡りを出したものと認められるから、破産者は右の第一回の手形不渡りを出した時点で支払停止の状態にあったものであり、被告は右時点で破産者が支払停止の状態にあることを知ったものと認めるのが相当である。

4 被告が破産者から受領していたゴルフ会員権譲渡通知書をもって、平成八年五月二日及び同月一日に三宝開発に対して内容証明による譲渡通知を行い、右譲渡通知がそれぞれ同月七日及び同月二日に三宝開発に到達したことは、前記一記載のとおりであるところ、前記2、3の認定によれば、被告は、破産者が支払停止になった後、本件譲渡担保権について第三者に対する対抗要件を備えるため右譲渡通知を行ったものであり、また、本件ゴルフ会員権が被告に移転した日から起算して一五日を経過した後悪意で右譲渡通知を行ったものといわなければならない。

5 そうすると、原告がした前記対抗要件の否認は有効というべきである。

三  原告の対抗要件否認により、被告は本件ゴルフ会員権の担保としての譲り受けを原告に対して対抗できないので、被告は、本件ゴルフ会員権を破産財団に返還する義務があるが、前記のとおり、被告は既に本件ゴルフ会員権を譲渡処分しているので、被告は、破産法七七条一項により、否認権行使時における本件ゴルフ会員権の時価相当額と認められる一五五〇万円(被告会社の処分価額である。)の償還義務を負うものというべきである。

四  以上によれば、原告の本件請求は理由があるから、これを認容することとし、民訴法八九条、一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官青栁馨)

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